−府中町−
清洲城普請の場
<人形>− 前田 犬千代
木下 藤吉郎
織田 信長
今川義元上洛の報が入った時、城壁が百間ほど台風で崩れたが、修復工事が遅々として進まない。信長は藤吉郎に普請奉行を命じた。
「みんな十の組に分かれろ。組は気の合う者で組み、一組が十間修理しろ。どこを受け持つかはお前達で決めろ。一番早く修理した組には、御大将から褒美を貰ってやる。明日、仕事を始める時間もお前達で決めろ。今日はゆっくり休め。わしも寝るぞ。」と引き上げた藤吉郎に職人は唖然とした。
やがて、清洲城内が賑やかになった。職人は彼の言葉に発奮して組分けをし、持ち場を決めた。褒美がでる。「ええい、今から始めよう」となった。途中、彼は「水だ」と言って酒を出した。彼の心遣いに職人の意気は上がり、翌日の夜には修理が終わっていた。
義元の大軍は清洲に迫っていた。城壁修理は籠城の備との予想を裏切り、信長は疾風の如く出陣。桶狭間で義元勢は全滅した。
清洲城は天下を動かした信長、秀吉、利家の青春の舞台である。
−鍛冶町−
勧進帳安宅の関所
<人形>− 源 義経
武蔵坊 弁慶
富樫 左衛門
頼朝の「義経追討令」を受けて、加賀国守の富樫は安宅の関所で通行人を取り調べた。義経主従が山伏姿に身を変えて通過しようとした時「あいやしばらく、東大寺再建の勧進山伏ならば勧進帳は」と役人の声。あわや露見と肝を冷やす一行の中で、弁慶は少しもさわがず、笈の中から巻物を取り出し「それつらつらおもん見れば」と声高らかに読み下す。
その気迫に役人は一行を通すが、富樫は強力姿の義経に目をとめ「強力とまれ。判官殿(義経のこと)に似ている」と呼び止めた。弁慶は「また、お前か。能登の国へ急いでいるのに、みなの後になるから怪しまれるのだ」と金剛杖で、殴りつける。主を打つ弁慶、頭を下げて打たれる義経。息をつめて見守る一行の心の切なさが一気に高まる最大の見せ場である。
富樫は義経主従の姿に感動し、義経一行と確信しながら、関所を通過させる。弁慶の智と富樫の仁が織りなす歌舞伎の名場面。
−魚町−
江戸ざくら金四郎
<人形>− 遠山 金四郎
雪 翁
大月 庄左衛門
江戸の町では人気者、金さんだが、実は町奉行で、時にはもろ肌ぬいで桜の入れ墨を見せての名裁き。遠山金四郎は映画、舞台、テレビに今も生きている、陣出達郎時代小説の主人公である。
幕府の要職にあった雪翁は、加賀百万石を手中にする計画を企て、加賀藩主成泰に愛妾として、自分の隠し子、お美代を送り込んだ。お美代に鶴千代が誕生すると、加賀藩の江戸家老、大月を仲間にし、奉公人だった渡海屋の主人に禁制の抜け荷を命じ、銭屋五兵衛の仕業の如く見せかける。
また、町の娘もかどわかし、外国へ売り飛ばすなど悪事のすべてを加賀藩の不祥事にして、藩主成泰を隠居させ、鶴千代を藩主させる筋書き。禁制破りの罪を着せられる危険を感じた銭屋は身を隠していたが、金さんは命を賭けて銭屋と会い、真実に迫る。
将軍、雪翁、大月などずらりと並ぶ前に罷り出て「加賀百万石を盗む大盗人」と陰謀を暴く名場面。背中の遠山さくらはまさに満開。